建設業での特定技能1号ビザ取得

「建設分野の特定技能1号」のビザ申請は、なぜ時間と手間がかかるのか?

建設業界は、専門性の高い技術・知識系のビザ(「技術・人文知識・国際業務」の在留資格)をもつ外国人、建設現場系のビザ(「技能実習」ビザ「特定技能1号」ビザ等)、身分に基づく就労制限のないビザ(「日本人の配偶者等」ビザや「永住者」ビザ等)をもつ外国人等。雇用される外国人のビザの種類が幅広い業界と言えます。そのような様々なビザの中でも、特に取得までに時間と手間がかかるのが、「建設分野の特定技能」ビザです。

さて、2022年10月に建設分野で「特定技能1号ビザ」のご依頼を頂きました。そして、昨年2023年10月に、ビザの許可が出ました。その経験から、建設分野での「特定技能ビザ」は、なぜ、取得までに時間と手間がかかるのか?そのことについて、今回のブログで取り上げてみたいと思います。

(写真:特定技能1号ビザを取得されたPHONG(フォン)様と雇用主の松下石材店松下尚平社長)

まず、今回、建設業「特定技能1号ビザ」を取得された人材と受入れ機関は以下の通りです。

・人材(フォン様)の国籍と入社ルート:
 国籍:ベトナム
 入社ルート:松下石材店様にて技能実習1号~3号➡特定活動4月(更新1回)➡特定技能1号
・人材の職種:
 建設分野 業務区分➡建築(石材施工)
・取得までに要した時間:
松下石材店様からのご依頼2022年10月~2023年10月「特定技能1号ビザ」取得(1年)
・雇用形態:
正社員で雇用契約を結ぶ

・会社について:
社名:株式会社 松下石材店(兵庫県高砂市)
営業種目:竜山石山元・各種石材卸(国内産・外国産)竜山石建築物・造形物、修復・復元、モニュメント、墓石・墓石改修・墓じまい、石工事設計加工施工一式、石雑貨、石アクセサリー、各石種古材

会社紹介:明治5年(1872年)1月5日創業の150年以上の歴史ある石材店です。歴史や実績があるだけではありません。米国サンフランシスコ市のゴールデンゲートパークのリニューアルで、日本庭園工事に松下石材店様が扱う高砂市特産の竜山石が提供されました。
その工事で2023年5月に松下社長が渡米され、「竜山石」はアメリカでも高い評価をうけています。

(2023年6月9日の神戸新聞の記事でも取り上げられています

2,「建設分野の特定技能」ビザ、取得までに時間と手間がかかるその理由は?

さて、取得までに時間と手間がかかると言われている「建設分野の特定技能」ビザ。それはなぜなのでしょうか?
考えられる理由を以下、大まかですが、箇条書きにしました。
・2つの省庁での認定と許可が必要
① 国交省の認定➡②入管のビザの(在留資格)許可 (建設業以外は②の入管の許可のみ)
・国交省の認定を受ける為の建設特定技能受入計画のオンライン申請に関して準備する書類が多い
・上記の①②の為に時間がかかる場合は、「特定活動」ビザの許可も必要である
・特定技能外国人を確保するルートや国籍毎に収集書類や注意点も違ってくる為、個々に確認が必要
・受け入れる分野(建設分野)に強い登録支援機関を探す手間もある

3,国土交通省から「建設特定技能受入計画」の認定を受ける建設分野特有の事情と独自の仕組み

建設分野だけ「国土交通省から「建設特定技能受入計画」の認定を受ける義務」があります。他の特定技能の産業分野にはこのような手続きは不要です。なぜ、建設業だけなのでしょうか?
それは、建設分野特有の事情があるからです。

例えば、
・少子高齢化に伴う人手不足が深刻である
・建設業界は様々な現場で就労することから管理の目が行き届きにくく他産業と比べて雇用管理が難しい
・季節や受注状況によって仕事量が変動し報酬水準も安定的ではない
・低賃金・保険未加入・劣悪な労働環境等ルールを守らないブラック企業の存在がある

このような、建設分野特有の事情から、技能実習生の失踪の割合も多くなっています。そして、失踪した実習生が不法就労の状態でまた建設現場で働くという現状があります。
建設分野の問題・課題解決から独自の仕組み構築(弊所HP)

そこで、建設業分野では、特定技能外国人の受入れにあたり、全分野共通の仕組みに加え、建設分野独自の仕組みを構築しました。
ですので、建設分野の受入れ機関は、「特定技能」ビザを取得する前に、「建設分野独自の仕組み」をよく理解しなければなりません。

また、国土交通省から「建設特定技能受入計画」の認定を受ける為、様々な書類を手配し、ほかの特定技能分野にはない手続きをしなければならないのです。

建設分野独自の主な仕組み
①国交省による企業の受入計画の審査・認定
②(一社)建設技能人材機構(JAC)に加入
③月給制を義務化
④建設キャリアアップシステムの登録義務化
⑤建設業許可を要件化受入人数枠の設定
⑥JACによる建設業界としての外国人受入れ
⑦FITSによる適正就労監理
⑧建設業法第3条の許可をとることが必要
⑨巡回指導等により確認を受ける
⑩技能の習熟に応じた昇給
⑪受入れ後講習
など。
これらの手続きに時間と手間がかかることも、「建設分野の特定技能は大変だ、難しい、ややこしい」と言われている理由の一つです。

高砂市立図書館 壁(青・黄・赤竜山石)株式会社 松下石材店様HPより

4,建設特定技能受入計画のオンライン申請に関して準備する書類

次に、国交省の認定を受ける為の、「建設特定技能受入計画オンライン申請」で準備する書類を用意します。
どのような手続きが必要なのか、どのようなことをしなければならないのか、確認してみましょう。
建設特定技能受入計画のオンライン申請について【新規】(2023年8月31日)より抜粋

・建設業法3条の許可を受ける
・建設キャリアアップシステムに登録する(事業者)
・建設キャリアアップシステムの技能者ID を確認する書類(カードの写し)が必要
・一般社団法人建設技能人材機構(JAC)またはJAC正会員の建設業者団体へ加入
・同一技能の日本人と同等額以上の賃金を支払っていることの説明書
月給制・技能習熟に応じた昇給・安定的な賃金の支払い等しなければならない
・常勤職員数を明らかにする文書(社会保険加入の確認書類)
・ハローワークでの求人票(申請日から直近1年以内。建築・土木の作業員の募集)を用意
・外国人が十分理解できる言語で「雇用契約に係る重要事項事前説明書」や「契約書・雇用条件書」作成
・就業規則及び賃金規程、退職金規程、36協定届、変形労働時間に係る協定書、協定届、年間カレンダー(有効期限内のもの:変形労働時間採用の場合のみ)

上記のように、様々な書類を用意するには、しなければならないことがたくさんあります。ですので、受入れる会社は、建設業に強い登録支援機関や、特定技能や技能実習の書類作成経験がある行政書士等、専門家に相談しながら準備を進めて行くことをおすすめします。

また、特定技能ビザは特に入管法(出入国管理及び難民認定法)だけでなく、労働関係や租税関係の法令遵守が求められます。その為、会社や外国人がそれを遵守している証明書類が必要です。書類の種類と枚数が多くなりますし、かなり面倒ですが、根気強く準備していかなければなりません。

5,国交省の認定と入管のビザの許可に時間がかかる場合は「特定活動」ビザの許可も必要

ところで、「特定技能1号」の在留資格に変更を希望していても、在留期間の満了日までに申請に必要な書類を揃えることができないなど、移行準備に時間がかかる場合はどうすればいいのでしょうか?

その場合には、「特定技能1号」で就労を予定している会社で就労しながら移行準備ができます。
その為のビザが「特定活動(6月・就労可)」です。
私が担当させて頂いた、今回のケースの時は、特定活動(6月・就労可)」ではなく、「特定活動(4月・就労可)」でした。

令和6年1月9日以降は、付与する在留期間を「6月」(従前は「4月」)で、在留期間の更新は1回限りになっています。ですので、在留期間の満了日までに申請に必要な書類を用意できない場合は「特定活動(6月・就労可)」へビザ申請をしてください。
特定技能関係の特定活動(「特定技能1号」への移行を希望する場合)(入管HP)

高砂市学校給食センター 門柱(青・黄竜山石) 株式会社 松下石材店様HPより

6,特定技能外国人を確保するルートによって収集書類や注意点も違うため、個々に確認が必要

続いて、特定技能外国人を確保するルートについてです。
ルートによって収集書類や注意点も違う為、費用が違ってきます。ですので、自社が手配しようと思っているルートではどのような書類や準備が必要で、どのくらいの費用が必要なのかご確認ください。

それでは、特定技能外国人を確保するルートを見てみます。
特定技能外国人を確保するルートは以下のような4パターンが主なルートといえます。

①国内の技能実習2号或いは3号等を良好に修了する人材や外国人建設就労者を雇用するルート
②国内の技能評価試験と日本語試験、両方の試験に合格した留学生等の外国人を雇用するルート
③海外にいる技能実習2号或いは3号等を良好に修了した人材や外国人建設就労者の経験者を雇用するルート
④技能評価試験と日本語試験、両方の試験に合格した海外にいる外国人を雇用するルート

ルートによって、準備内容やしなければならない事項も違ってきますが、国籍によっても、準備する書類やすべきことも違います。さらに注意が必要です。
 国籍ごとの注意については入管庁のホームページにありますので、ご確認ください。
特定技能に関する各国別情報(入管HP)

7,受け入れる分野(建設業)に強い登録支援機関を探す

さて、登録支援機関についてです。建設は特殊な分野ですので、建設業に慣れている経験豊富な登録支援機関にサポートを依頼するのが安心です。

建設業を専門にしている登録支援機関を探すのは手間かもしれません。しかし、スムーズに申請を進める為には、建設業に強い登録支援機関に任せるのが、結果的には良いと思います。

他の業界(建設以外)しか扱った事のない登録支援機関は、申請手続きだけではなく、建設業の会社や人材をサポートする上でも難しい部分があると思います。
 ですので、建設の特定技能外国人を雇用する場合は、建設業に強い登録支援機関に任せる事をおすすめします。

また、『特定技能』人材を雇用する場合、特定技能人材の日本での生活をサポートするために法令で定められた支援を行わなければなりません。これを「1号特定技能外国人支援計画」といいます。この支援計画の全部又は一部の実施を、登録支援機関に委託することができます。

1号特定技能外国人支援計画の概要(弊所HP)
登録支援機関(入管HP)

お仕事中のPHONG(フォン)様の様子

8,「建設分野の特定技能1号」のビザ:入管申請

「建設特定技能受入計画」が、国土交通大臣にオンライン申請で無事認定された後、次は入管庁にビザ取得許可をしてもらわなければなりません。

入管に提出する書類も大変多いです。主な書類を以下に抜粋しました。
(尚、提出書類について詳しくは、入管庁HPの在留資格「特定技能」をご覧ください。)

特定技能(1号):申請人に関する必要書類(主な書類の抜粋)
1、特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧・確認表
2、在留資格認定或いは変更申請書
3、特定技能外国人の報酬に関する説明書
4、特定技能雇用契約書の写し
5、雇用条件書の写しと賃金の支払
6、雇用の経緯に係る説明書
7、徴収費用の説明書
8、健康診断個人票と受診者の申告書
9、1号特定技能外国人支援計画書
10、登録支援機関との支援委託契約に関する説明書
(支援計画の実施を全て登録支援機関に委託する場合)
11、二国間取決めにおいて定められた遵守すべき手続に係る書類
(特定の国籍のみ)

※技能実習2号(3号)から変更する場合は以下の書類等も必要。
・直近1年分の個人住民税の課税証明書及び納税証明書
・給与所得源泉徴収票の写し
・国民健康保険被保険者証の写し、国民健康保険料(税)納付証明書
・申請人の国民年金保険料領収証書の写しまたは、申請人の被保険者記録照会

特定技能(1号):所属機関に関する必要書類(主な書類の抜粋)
以下の書類は所属機関(外国人を雇用する会社・法人)に関する主な必要書類の抜粋です。
1,特定技能所属機関概要書
2,登記事項証明書
3,業務執行に関与する役員の住民票の写し
4,特定技能所属機関の役員に関する誓約書
5,労働保険に関する書類(受入れによって提出書類違う)
6、社会保険料納入状況回答票又は健康保険・厚生年金保険料領収証書の写し
7、税務署発行の納税証明書(その3)
8、法人住民税の市町村発行の納税証明書(受入れによって提出書類違う)
9,公的義務履行に関する説明書

※建設分野の場合は以下も提出します。
・建設特定技能受入計画の認定証の写し
・建設分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書
※上記に加え申請人が、技能実習2号(3号)修了者か、或いは試験合格者かによって、追加される書類が異なります。

高砂市立総合体育館 壁(青竜山石)株式会社 松下石材店様HPより

9,建設分野の場合、「特定技能1号」ビザ取得後の手続き

建設分野の場合、「特定技能1号」ビザ取得後も、特有の手続きをしなければなりません。

例えば、以下のようなことです。
・国土交通省に対する受入れ報告
「特定技能1号」ビザ取得後、速やかにオンラインで「外国人就労管理システム」から「受入報告」を行う必要があります。これで、JACやFITSと情報共有できます
・FITS(一般財団法人国際建設技能振興機構)による受入れ後講習の受講、定期巡回の受入れ
受入れ後講習:受入後3ヶ月以内を目途に受入後講習を受講
定期巡回の受入れ:受入企業はFITSの巡回指導を受ける義務がある

FITS(一般財団法人国際建設技能振興機構)HP
※その他、建設業に関わらず、特定技能人材を受け入れている場合、入管に対する定期報告・随時報告をしなければなりません。(支援計画の実行状況の定期報告や雇用契約や支援体制に変更があった場合など)
➡詳しくは入管庁HP(特定技能所属機関・登録支援機関による届出(提出書類)

10,ブログの最後に

今回のブログでは、ややこしい、難しいと言われる「特定技能の建設分野」のビザ申請をさせて頂いた経験から、「「特定技能の建設分野」のビザ申請では、なぜ時間と手間がかかるのか?」についてお伝えしました。

建設の特定技能ビザの取得については、
・2つの省庁での認定と許可が必要
・書類の収集と作成に時間と手間がかかる
・取得までのスキームが複雑でしなければならないことが多い
以上のような内容をおおまかにでも理解しておく事が大切です。

特に、特定技能は他の就労ビザと違って雇用ルート、産業分野、国籍等によって取得までの流れや注意点が異なる場合があります。

ですので、取得を希望される場合は、時間に充分な余裕をもって、入管庁や専門家にご相談しながらビザ申請を進めて行ってください。

最後になりましたが、PHONG(フォン)様と松下石材店様社長御夫妻、松下石材店の皆様には、ご尽力、ご協力頂きましたこと、この場をお借りして心よりお礼申し上げます。
誠にありがとうございました。

今回のブログや「建設分野の特定技能1号」のビザ申請についてご質問等ございましたらお問合せください。
お問い合わせフォーム(弊所HP)

ご参考(弊所HP):
特定技能ビザご相談・申請・受入サポート
特定技能制度とは
特定技能ビザ

2024年04月28日